こんにちは、SkyWalkerです。
愛好家にはおなじみ、ポール・カリーのアウト・オブ・ディス・ワールド(Out of This World, OOTW)です。バリエーションが多すぎて到底追いきれませんが、分かる範囲でご紹介します。ちょっとマニアックな記事になりそうです笑
現象
マジシャンは観客に直感のテストをしてみようといい、トランプ一組を観客にわたします。トランプにはハート、ダイヤの赤いカードと、スペード、クラブの黒いカードがありますが、観客にはトランプの表を見ずに、そのトランプの色を分けていってもらいたい、と言います。観客にトランプを裏向きのまま、赤と思ったら赤の列に、黒と思ったら黒の列に配り分けてもらいます。
すべて配り分けると、きれいに赤と黒が分かれています。
マジックの反響
一部省略はありますが、以上が原案の流れです。1942年に発表され、マジックの神様ダイ・バーノンは一世紀に一度の傑作と絶賛しています(1)。
面白いエピソードを一つご紹介します。第二次世界大戦中、イギリスのウインストン・チャーチルの夕食に、友人たちが少しでもリラックスしてもらおうと、Harry Greenというマジシャンを呼んできました。彼がこのマジックを行ったところ、チャーチルは大変驚き、もう一度やってくれと頼みました。2回目も分からず、結局リクエストは6回に及び、ついにそのタネは見破られず、しかも夜の国会に遅刻してしまったそうです(2)。
ちょっとマニアックな考察
これが発表されて80年ほどが経過し、様々なバリエーションが考案されましたが、誰かが演じているのを見たことは意外と多くありません。唯一、マジックブームがあった2000年代に、前田知洋氏がテレビでほぼ原案に近いものを演じているのを見た記憶があります。
上述の通り、バリエーション全てを追えてはいませんが、大別して以下の4点が考察ポイントになるのかなぁと勝手に思ってます。(演者が配るか、観客が配るかという点もあるのですが、演技の最中に両者とも配ったりするので、今回は省略)
- フルデック/パケット
- ガイドカードを変える/変えない
- セット/ノーセット
- レギュラー/ギャフ
フルデック/パケット
原案はフルデックを用います。最後に赤と黒がきれいに分かれているのは圧巻ですが、演技時間が長くなるのが欠点です。対して、フルデックではなくデックの一部を用いる方が手軽にできます。
私が最初にこのトリックを学んだのはU. F. グラントの改案(3)で、フルデックではなくパケットを用います。即席にできるので、中学生の時に何度か演じていました。Eugene BurgerのExploring Magical Presentationsで紹介されているのも、このU. F. グラントの改案です。
もともとマジックを演じる目的の場ならフルデック、トランプでゲームをしている時など急にやるときはパケット、という考え方もあるかもしれません。
フルデックの演技時間を短くするアイディアとして、Luke Jermayの演出論は面白いです。観客が早く配るように誘導することで、演技時間を短くします。興味がある方は、Vanishing Inc.で無料でダウンロードできますので、ご参考まで(やり方自体の解説はなし)。
ガイドカードを変える/変えない
上の説明で省略した点で、原案者もこの部分の説明に苦心したらしいです(4)が、演出でのカバーも可能です。ですが、ガイドカードを変えなくてよいのであれば、その方がすっきりしそうです。
ポール・カリー自身もガイドカードをチェンジしない手順を”Never in a Life Time”と題して発表しており、マジェイア氏がこのギャフバージョンを夢のクロースアップ・マジック劇場に載せています。
ガイドカードをチェンジしない手順で驚いたのが、Ryan Schlutzの”Super Strong Super Simple”で解説されているOOTWです。観客にシャフルさせたデックのパケットを用いるのですが、ガイドカードチェンジなしで赤黒が分かれます。初めて見たとき大変驚き、こちらをレパートリーにしようと思いました。
また、Wyman Jones/Paul Harrisの改案である”Galaxy”も驚きました(5)。Killer Card TricksでKris Nevlingが演じていたのですが、フルデックでガイドカードをチェンジさせずに現象を達成しています。
セット/ノーセット
セットが必要な場合、適切にフォールスカット、フォールスシャフルをしたほうが良いでしょう。マーチン・ガードナー・マジックの全てにレッド・ブラック・シャフルと題して、様々なシャフルが紹介されています。
ノーセットで出来る手順では観客にシャフルしてもらったほうが効果的で、手順の途中でも観客に混ぜさせた方が不思議です。
上記の”Galaxy”は始めに観客にリフルシャフルしてもらえる部分があり、その意味でも強いと感じます。
Card College LightのRoutine 1にJohn Kennedyの改案があるのですが、その前の手順からの流れでセットが気づきにくくされており、傑作だと思います。ちょっとしたパーラーでやってみたいですね。
レギュラー/ギャフ
基本的にはレギュラーで演じることしか考えていませんでしたが、ギャフを使えれば相当鮮やかな現象が達成できそうです。ストリッパーデックも一つの方法ですね。
残念ながら商品化されているものはほぼ追えてません、すみません(^^;
まとめ
今回まとめるにあたって、garamanのマジック研究室のサイトを参考にさせていただきました。クラシックなこともあって、全てを把握することはできず、例えば、こざわまさゆき氏の”Hello World”、ジョセフ・バリー氏のOOTWは未見です。
さらに、OOTWではないのですが、赤と黒をテーマにしたマジックもまだ多くあります。一例として、セルフワーキング・マジック事典に「影響を及ぼすペア」や「マグネティック・カラー」なども赤と黒が分かれるマジックとして面白そうなのですが、余りに広がりすぎるので省略。またどこかで取り上げられれば…
ということで、自分自身の結論としては、
・即席でやるのであれば、Ryan SchlutzのSSSSで紹介されているOOTW
・フルデックならば、Wyman Jones/Paul Harrisの”Galaxy”
・パーラーで時間があれば、Card College LightのRoutine 1
が現時点のレパートリーかなぁと思っています。
もし「こんな面白いのもあるよ」なんていうマニアな方がいればw、ぜひシェアしていただけると幸いです。
参考文献
- メンタルマジック事典, 松田道弘, p4, 1997年, 東京堂出版.
- Magician’s Magic, Paul Curry, Chapter 13, 1965, Dover Publications Inc.
- 奇術入門シリーズ トランプマジック, 氣賀康夫, p25-32, 1996年, 東京堂出版.
- マーチン・ガードナー・マジックの全て, マーチン・ガードナー, 壽里竜訳, p82-83, 東京堂出版.
- The Art of Astonishment Book 3, Paul Harris, p253-256, 1996, A-1 Multimedia.
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