こんにちは、SkyWalkerです。
ホーミング・カードの記事をtwitterでアップしたとき「トランプにサインをさせるかどうか」というご質問を頂きました。
実はあの記事を書いているときも、サインをするかどうか書こうかなぁと思っていましたが、長くなりそうで割愛していました。
この話は以前から色々思うところもあったので、つらつら書いていきたいと思います。あくまで一アマチュアマジシャンの意見として、気軽にお読みください。
トランプにサインをする意味
マジシャンがトランプにサインを要求する一番の目的は、「デュプリケイト=全く同じカード」はないと観客に知らせたいときです。ホーミング・カードでは、ポケットに飛んできたトランプが正真正銘、先程選んだトランプであることを示したいがために、サインをさせます。
ただ、サインをする行為は、本当に同じカードではないことを証明したいだけなのか、それがずっとひっかかっていました。それよりも深い意味を持っているのではないかと。
文化相対主義
いきなり小難しい話かもしれませんが、「トランプにサインをする」行為に関して理解するには、その前提となる文化背景=コンテクストを理解する必要があります。
文化人類学では自国の文化を絶対的なものとせず、あくまで他国の文化と比較して相対化しなければいけない、という「文化相対主義」のスタンスをとります。
したがって、この行為を理解するには、カードマジックが発展した外国における「トランプ」と「サインをする」という文化背景を考察し、日本の文化と相対化しなければいけないのです。
欧米人にとってのトランプ=Playing Cards
トランプという呼び名は日本だけで、欧米ではPlaying Cardsプレイング・カードと呼んでいますが、日本に比べて普及品であることは間違いありません。
例えば日本で「ピンからキリまで」「イチかバチか」といった博奕(ばくち)用語を日常語として使っているように、アメリカではブラフ bluff(ハッタリ)、エース・イン・ザ・ホール Ace in the hole(とっておきの切り札)といったポーカーに関連する言葉が日常の中で使われています(1)。
どこで読んだか思い出せないのですが「欧米ではトランプは紙と同じぐらいの日用品として捉えられている」とあり、その意味では破ったり、何かを書き込んでも、そこまで惜しいと思っていないのかもしれません(※これに関して、記事の一番最後に追記しています)。
サインの文化・印鑑の文化
あくまで私見ですが、欧米と日本ではいわゆる「署名=サイン」 “Signature”に対する捉え方が違うように感じます。
一番身近な例としてはクレジットカードがあります。クレジットカードを発行する際、直筆署名を登録し、支払いのときにもサインを要求されます。
初めてクレジットカードを作ったとき、サインをすることに大変違和感がありました。今まで印鑑=ハンコで契約などをしてきた者としては相当とまどいました。
サインなんてその時以外したことなかったので、慣れない英語の筆記体で練習をしたものでした。親に聞いたら「適当で良い」と言われ、更にとまどったり笑 なら漢字でええやん。。。(実際、漢字でサインをする方もいるそうですね)
外国ではクレジットカードのみならず、小切手や契約書類にもサインをしますから、サイン=自身の契約として違和感なく生活に溶け込んでいます。
そんな人達から見ると、日本の印鑑文化は大変不思議に思えるのでしょう。その印鑑さえ盗んでしまえば、誰であっても契約できてしまうのですから。サインはその人にしか書けず、筆跡鑑定を行えば、たとえ似せて書いても見破られるはず、という論理です(真偽は不明)。
グローバル化やCOVID-19の影響で印鑑廃止という話も出てきていますから、今後は仕事やプライベートでもサインをする機会はますます増えると思います。
外国と日本での背景の違い
それを踏まえた上で、トランプにサインをする行為が外国ではどのように捉えられるのでしょう。
まず、トランプに何かを書き込んでも、もったいないという思いはないかもしれません。「サインをする」ことが自身の契約という意味があり、そのトランプは自分自身にしか作り出せない特別なものと感じるかもしれません。
これが欧米のマジシャンがトランプにサインをお願いしたときに、観客に与える文化的な意味なのではと(勝手にw)思っています。
対して、日本では欧米に比べトランプは普及しておらず、そもそも使い捨てではないと思うことが通常です。サインをすると「もったいない」思いが先に来ることが考えられます。またサインをする行為が文化的に馴染みの無いものであり、せいぜい「同じトランプはない」ぐらいにしか感じられないでしょう。
そういう意味で、私のようなアマチュアがトランプにサインをさせると、不思議さよりもストレスを与える方が大きいと感じていて、基本的にはサインはお願いしていません。
状況が許せば
ただし、演者がプロであったり、何か特別な状況であれば、トランプにサインをさせても良いと考えています。
プロマジシャンにマジックを見せてもらえることは、明らかに「非日常」です。しかもプロであればトランプは仕事の道具ですから、かなりの個数を持っていても不思議ではないでしょう。その場合「サインをする」ストレスよりも「特別なこと、記念となること」という思いが強く出るのではないでしょうか。
同様の意味で、アマチュアであっても、記念日などの特別な日に演じるマジックであれば、「そのために用意してきました」という雰囲気を出せるなら、サインをすることは良いでしょう。私も「アニバーサリー・ワルツ」を演じるときはサインをいただきますし、そのままその特別なカードをプレゼントしますので、観客のストレスは少ないはずです。
結局、「観客に余計なストレスを与えず、楽しんでもらう」という視点が大事ですね。
終わりに
繰り返しますが、あくまで個人的な意見なので、読んでくださった方々にも様々な意見があると思います。
ぜひSNSでも皆様の考えが聞きたいです。
また、ゆうきともオンラインでもゆうき氏とJONIO氏の対談があったそうですが、残念ながら未見です。機会があればぜひ聞いてみたいです。
マジェイアの魔法都市案内でもトランプにサインをする?!と題した興味深いエッセイがありますので、ぜひ。
参考文献
(1)トランプものがたり, 松田道弘, p172-177, 岩波新書.
2021年9月17日追記)
たまたま嫁の知り合いにアメリカ人がいて、「トランプにサインをする、破ること」に関して質問してもらいました。
一例ですが、参考になるかもしれません。ちなみに彼は30代で親が医師なので、比較的裕福な家庭環境だと想像できます。
Q1. 日本だとトランプは通常家庭に一組しかなく、マジックで一枚破ったりサインしたりすると、観客はもったいないと思うのが通常です。どこかの本で読んだのですが、アメリカやヨーロッパではトランプは消耗品で、一枚破ったりサインしたりしてももったいないと思わない、と書いてあったと思うのですが、そう思いますか?
A1. いや〜僕はそのようには思ったことはないですね。今まで見たカードマジックは、ほとんど破ったりするものではなかったです。個人的にはもったいないと思います。本当に安いトランプを使うのなら、気にしない人もいるかも。でも、僕は祖父母とトランプゲームをしていたので、質の良いトランプがほしかったですね。
あまり関係ないですが、ついでにマジシャンがよく使うトランプである、バイシクル Bicycleに関しても質問してみました笑
Q2. ちなみに、SkyWalkerはバイシクルを使っています。安くて質が良いと思っていますが、あなた自身は安いと思います?
A2. バイシクルは良いよね〜よくそれでゲームをしてました。紙でプラスチックじゃないから、すぐに曲がっちゃうけど、価格にしては良いカードですよね。
だそうです。
アメリカ人だから破ったりサインしたりしても気にしないという訳ではなく、TPOに応じてやるべきと思いました。
そして、やっぱりバイシクルは相当普及しているんですねぇ笑 勉強になりました!
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