先日、幼稚園の友人家族たちとのホームパーティーにお誘いいただきました。マジックを準備していき、アンコールでカード・アクロスを行ったのですが、大人数でも効果的なことが改めてわかりました。
自分の備忘録も兼ねてまとめてみました。
現象
観客の一人に助手を頼みます。演者は助手に一組のデックを渡し、3つの山に分けてもらいます。助手にそのうちの一つの山を選び、枚数を数えてもらいます。仮に17枚だったとします。その17枚を助手のポケットにしまってもらいます。
演者は残りのトランプの中から助手に1枚選んでもらいますが、クラブの3だったとします。
演者は、今から選ばれたトランプの数字の数だけ、助手のポケットの中へトランプを飛ばしてみせようと言います。トランプをパラパラ弾く動作を3回繰り返します。
助手のポケットからトランプを取り出してもらい、数えると20枚になっており、3枚増えています。
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カード・アクロスはもともと”The Thirty Card Trick”や”The Cards from Pocket to Pocket”と呼ばれていました1)。30枚のパケットを15枚ずつに持ち、その間でカードが飛行するのを見せていたそうです。多くのバリエーションのうち、上記の現象では「あそびの冒険トランプ・マジック・スペシャル」(松田道弘)に記載されている、デビッド・デバンの方法を紹介しています(オリジナルはLessons in Conjuringに収録)。
私が初めてこのマジックを知ったのは、某大学奇術研究会の冊子からでした。観客に数えてもらった10枚ずつのパケットを演者と観客が持ち、演者が自分のパケットから3枚カードを飛ばすジェスチャーをすると、演者のパケットが7枚、観客のパケットが13枚になっています。
私が行っているのは上記の冊子のやり方に、デビッド・デバンの方法を組み合わせたものです…というか、知らない間に2つのトリックを混ぜており、ちゃんと解説を確認する重要性を認識しました😂
やり方は大胆で、読んだときは「これは難しいのでは…」と思ったものでしたが、数年前に娘相手にやってみたところ意外と通じることがわかり、実演しています。
現象がシンプルなので、小さい子どもにも分かりやすい(Lessons in Conjuringでは「6歳でも分かる」)、大変優秀なクラシック・マジックです。
Card(s) Acrossのバリエーション
このトリックはマジシャンの改案魂を刺激するようで、様々なバリエーションが発表されています。私が知っていて、面白いと思ったものを紹介します。
Las Vegas Leaper-Paul Harris
演者が10枚数え、観客にも確認してもらい、持っていてもらいます。さらに演者は10枚のパケットを持ちます。おまじないをかけると、演者のパケットは9枚、8枚と減っていきます。別の観客に手渡し数えてもらうと、7枚しかありません。始めの観客に枚数を数えてもらうと、13枚になっています。
カウントの技法はあるも、上記のマジックより低負担で行えます。ポール・ハリスのThe Art of Astonishment Vol.1に収録されています。
All Expenses Paid-Jim Krenz
観客Aに20枚のカードを配ってもらいます。観客Bにも20枚であることを確認してもらい、半分ぐらいを観客Aに手渡します。観客Aのパケットを数えると12枚で、観客Bは8枚持っていることになります。演者はおまじないで観客Bのパケットから2枚抜き取り、観客Aのパケットに移動するジェスチャーをします。観客Bのパケットを数えてもらうと8枚から6枚に減っており、観客Aのパケットは12枚から14枚に増えています。
すべて観客が操作するので、演者は適切に指示を出すだけです。ジム・クレンツの傑作です。
Ryan Schlutzライアン・シュルツのDVD, “Super Strong Super Simple”で知りました。
Thought Cards Across
Thought Cards Across(観客が思ったカードが見えない飛行をする)のバリエーションです。
新幹線-Max Maven
4枚の赤裏のカードを観客に持っていてもらいます。別の観客に4枚の青裏のカードを示し、1枚選んでもらいます。青裏のパケットを持ってもらい、おまじないをかけると3枚になり、先程覚えたカードが見当たりません。あらかじめ観客が持っていた赤裏パケットを裏向きに広げると、4枚の赤いカードの間に1枚の青いカードがあり、それが先程覚えたカードです。
メンタリスト、マックス・メイビンによる作品。中学生のときに高橋ヒロキ氏がテレビで演じていました。パーラーでもできる、視覚的にはっきりしているマジックです(この時、氏の他の演目がホーミング・カードでした。今思っても、トリックの選択が素晴らしかった)。
松田道弘氏「トリック・カード事典」の「トリック・カード30選」にも選ばれています。日本語訳のパケット・トリックに解説されていますが、ギャフカードは付属されておらず、別で単品販売されています。日本のマジックショップでも扱っています。
E.G. Brown Revisited-Jared Kopf
12枚のカードを数えます。6枚のうちの1枚を心の中で覚えてもらい、6枚ずつの2つの山に分けます。おまじないをかけると、覚えてもらったカードがあるパケットが5枚になり、もう一方は7枚になっています。7枚のパケットから、先程心の中で覚えたカードが出てきます。
Edward G. Brownの”The Twelve Card Thought Transition”(The Card Magic of Edward G. Brown収録)の改案。技法はありますが、そこまで難しくなく達成できます。やろうと思えば借りたデックでもできます。
Vanishing Inc.のJared Kopf Collection 2(ダウンロード動画)に収録されています。本であれば”Nothing but the Family Deck“にも解説されているようです。
覚えたカードを飛ばす?
「カードを飛ばすなら、覚えたカードが飛ぶ方が効果的なのでは?」という発想からThought Cards Acrossが生まれましたが、実際の効果はどうでしょう。
Thought〜はあまり演じたことがないのですが、Zen’s Miracle Pocket to Pocket Trick(3枚の選んだカードが封筒に入れたパケットに飛行するトリック)の改案に関して、松田道弘氏の考察を紹介しましょう。
「しかし、この改案を実際に演じてみて気がつくことがひとつあります。それはクライマックスに対する客の反応です。客は別のパケットのカードの枚数が3枚増えたことを知った時に大拍手をします。しかし見えない飛行をした3枚のカードが客の選んだカードであることを証明してみせても、少拍手しか期待できないのです。カードが3枚秘密飛行をしたことを証明した途端に、この奇術は事実上終っているのです」2)
この指摘は慧眼だと感じます。しかしながら、これに関しては演出や好みもあり、実演して観客の反応をみながら、それぞれ判断すれば良いでしょう。
最後に
カード・アクロスに更に興味があれば、フレンチドロップの石田コラムに、相変わらずの情報量を詰め込んだ特集がありますので、ご参照ください。
昔ながらのやり方でも、カウント技法やギャフカードを使用した方法でも、自分の好みの方法が見つかれば、重要なレパートリー候補になると思います。
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