こんにちは、SkyWalkerです。久しぶりのマジック本レビューです。
予想以上に笑い、それと共に深く考えさせられた素晴らしい本です。
2023年1月14日更新
1月9日には”SOLD OUT”でしたが、14日には再度購入できるようになっていました。
しかし、いつ在庫が払底してしまうかは不明なので、少しでも興味があれば早めの購入をおすすめします。
松田道弘の「あそびの冒険」シリーズもそうでしたが、マジック本は一度絶版になると本当に手に入れにくくなりますので…
はじめに
ドイツのメンタリスト、フロリアン・ズィヴァリン(Florian Severin)の著作による”13 Steps to Vandalism”(ドイツ語)の英語版 “What Lies Inside“を底本とし、フランス語版に追加された3作品に追加の1作品を加えた、岡田浩之氏の邦訳になります。
2021年2月に発売された当初、内容も不明な状態ですぐにショップで”SOLD OUT”の表示が出てしまい、手品クラスタの間で話題になっていました(その後すぐに買えるようになり、速攻でポチった一人ですw)。
当時は少し読んだ後、そのまま積読になっていました。
最近、この「ダリアン・ヴォルフの奇妙な冒険」の1つ目に紹介されている『斯くも脆き空想の檸檬』の改案がマジックショップで紹介されており、「あ、そういえばまだ全部読んでなかった」と思い出しました。
それに加え、先日38度の発熱があり(抗原検査ではコロナ陰性)自宅待機になったことをきっかけに、読んでみようと本を手に取りました。
いやこれ、ものすごい本でしたね…500ページ超あるのですが、二重の意味でおもしろく(興味深い+滑稽w)、何度も笑いながら読み切ってしまいました。
ネットでざっと検索すると、意外と感想など見当たらないので、備忘録としてまとめてみます。
あまり詳しく書くとこれから読む人の楽しみをうばってしまうので、全体的な感想を書いてみます。
内容
主にパーラーもしくはステージで行うメンタルマジックが解説されていますが、通常のマジックに近いものもみられます。いくつかの章では手法や考え方のエッセイもあります。
トリックの現象自体は暗示、読心術、予言、透視など幅広く紹介されています。また、観客に演者が読み取った思考を読み取らせたり、タイムトラベルの演出もあります。
著者がドイツの名門大学のアニメーションと脚本を修めており、演出とセリフが大変秀逸です。
演出の面白さ
著者自身、自分が引き起こす現象に意味をもたせることを重視しており、その状況設定に引き込まれます。ストーリーを意識して一つのトリックを作り上げています。
その演出で使う小道具が現象にマッチしているだけでなく、秘密の動作やギミックを隠す役割も同時に担っており、何度も感心してしまいました。
手法の面白さ
現象を読むと「いや…これ無理じゃない…?」と感じるのですが、解説を読んで「え…ここまで考えてるの…?面白いけど、おれには無理だ…」となること請け合いです笑
元となる原理は昔からあったりするのですが、それを更にステージ上やテレビで行うことを前提に、巧妙に隠匿されます。
プロのすごさが感じられます。
特にDual realityとプレ=ショー・ワークはすぐ取り入れることは難しいのですが、セリフや観客とのリラックスしたコミュニケーションの大切さが学べます。
ジョーク
本人がコメディ・メンタルマジックのスタイルをとっており、演技中のセリフでもジョークが飛び交うのですが、本の中にもジョークが散りばめられています。
人によってはけっこうキツい?ものもある気がしますが、私は何度も笑ってしまいました。
特に「(中略)示すことができます(図19)」とあり、図19を見ると…爆笑してしまいました。興味ある方は本文参照を。
演技中にジョークを入れることにも理由があり、本文中に解説されています。
原理・原則
トリック自体、ステージ上でのメンタルマジックに最適化されており、これをそのまま自身の演目にすることは難しいかもしれません。
しかし私が感嘆したのは、それぞれのトリックを思いついた経緯や、そのトリックの手法、演出などの原理・原則を示している点です。
参考文献も充実しており、原典にも当たりやすくなっています。
また、マジック界でよく言われている「追われていないのに逃げてはいけない」「Be natural」の例外なども考察しています。これも示唆に富んでいます。
自身に最適化されたトリックを考える
マジックの演出やストーリーは、そのトリックを演じる演者のペルソナに合ったものであるべきです。
この本で解説されているトリックは「著者自身にとって」現在の完成形かもしれません。しかし、私的な部分が多々あることにより、逆に「自分に合うものを考案しなければいけない」と思わされます。
この本のトリックをそのままやるのではなく、同じ原理を用いながら、別の演出で演じることを著者自身もすすめています。
本文中に出てきた文章と、それに続くレネ・ラバンの言葉が格別印象的でした。
あなたの目に映るすべてのトリックは、あなたの新鮮で全くユニークな思考による改善と変更を待ち望んでいるのですから。
p159
すべての物事はより良くすることができる。特に、このアートに対する愛を持って行われたときには。そうだ。私は我が『娘たち』が成長し続けるだろうことを信じているー彼女らが既に大きく育っていたとしても。(レネ・ラバン)
p159
観客にリスペクトを
本文中に過激な表現も使っている著者ですが、観客に対するリスペクトが端々から感じられます。
誰でもステージに上がることには緊張を伴うもので、リラックスしてショーを見てもらえるような工夫が随所にみられます。
観客をおとしめるような演出やセリフは避けており、プロとはこういうものなのだと感じられます。
越境的な知識・技術
面白いのは、参考文献でしばしばクロースアップマジシャンの名前が出てくることです。
マイケル・クロース、ダーウィン・オーティスの名前は何度も出てきます。
彼自身、メンタリズム以外のマジックも訓練したほうが良いと言っており、その方がメンタリズムにも応用がきくと言っています。
このような越境的な姿勢が、深みのある知識・技術につながっているのでしょう。
最後に
もし興味があればぜひこの本を手にとってみてください。この読書体験自体、特別なものになると思います笑
個人出版ですので、気づくと絶版になっている可能性が大です。
ある程度(中級以上?)マジックを勉強している方向けですので、そこはご注意を。
この本の中で、彼はダーウィン・オーティスのストロング・マジックを絶賛しており、次はそちらを読もうと画策しています。
参考
緑の蔵書票:こちらから購入できます。
教授の戯言:目次と簡単な内容を確認できます。
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