こんにちは、SkyWalkerです。
以前Twitterで古典について連続でツイートしたことがあり、自分の備忘録も含めてまとめておこうと思います。
情報が氾濫する中、良質なものに触れるためのヒントになれば幸いです。
クラシックマジック
クラシックマジックと呼ばれるマジックがあります。クラシックをコトバンクで引くと、
(classic classique)
[1] 〘名〙
① 古代ギリシア‐ローマの芸術作品のように、完成され調和のとれた形式の美しさを特色とする作品、あるいは流派。音楽、美術などでそうした特色を持った古典派の作品をもいう。古典派。
② 長い年月にわたって多くの人々の模範となり、また、愛好されてきた著述や作品。古典。
※読書放浪(1933)〈内田魯庵〉新著を閑却するはホントウの読書家に非ず「五年も十年も経って陶汰されないものならクラシックである」
とあり、②の「長年にわたって模範となるマジック」という意味になります。上記の内田魯庵の言葉も響きますね。
松田道弘氏のクラシックマジック事典のまえがきに「クラシック・トリックはどれも昨日創られたかのように新しい。トリックに年齢はないのです」と記載されています。
模範となるもの
マジックも他の芸術と同じように、模範となるトリックが存在します。初心者向けのものから、修得するのに長い年月が必要となるものなど、難易度は様々です。
例えばピアノでは練習曲として定番のバイエル、ブルグミュラー、ソナチネがあります。これが弾けると、次はソナタという本格的な曲集に移るのが定番なようです。
私も子どもの頃にブルグミュラーとソナチネを2つ同時にやっていました。当時は練習があまり好きではなく(というか嫌いだった笑)、なんでこんなんやらなあかんのや、と思っていた時期もありましたが、この2つが終わる頃には自分の好きな曲が弾けるようになった記憶があります。
そこから俄然ピアノが楽しめるようになりました。一瞬ポピュラー・ミュージックに目移りしたこともありましたが、結局クラシックに戻ってしまいました。
マジックも同じ印象です。技巧的には単純ですが、模範となるようなトリックを練習していくと、いつしか基本技法や演じ方を学ぶことができ、その後に好きなトリックができるようになっていくと思います。
時を超えて残るもの
前述の内田魯庵の言葉もそうですが、そのマジックがクラシックとなりえる一つの試金石として「時間」があると思います。その作品が5年、10年後に演じられているのか、バリエーションが出続けているか、時代を超えて残る力強さがあるのかどうか。
以前高校時代の歴史教師が「今流行っている○○という作家は、おそらく数十年後には残っていないでしょう。夏目漱石など時代を超えて残る、いわゆる古典と呼ばれる作品こそが、名作なのです」と言っていました。
文学や音楽など他の分野でも同じですが、いわゆる古典と呼ばれるものは、歴史を通じて人々の心を掴んできた何かがあります。
それに加え、作られた時点では作者が意図していなかったことも、時代を経るごとに受け手側が解釈を変化させることで、新たな意味合いが生まれ、古典として確立されるのでしょう。
新しいマジックをやっていて、しばらくして古典に戻ると「何だこの傑作は!?なぜ見落としていた!?」となることがしばしばあります。これは作品自体が変化しているわけではなく、受け手側が今までの経験や知識を通して変化しているからなんですね。
初心者の頃にクラシックに触れる事は大事で、その時に価値が分からなくても、いつか戻ってきた時に新たな発見ができれば良いと思います。
古典にも新たな息吹を
では古典だけ勉強していればその他は何もいらないのかというと、そうでもないと思います。
古典がベースにはなるけれども、そのままやれば良いわけではありません。現代的な感覚を養う上でも新しい作品に触れることは重要です。
時代背景が異なれば、演技時間、スピード、ビジュアルの程度など、表現の仕方も変わっていきます。
幻のブランド「小倉織」を復元した染織家の築城則子氏の言葉は、大変示唆に富むものです。
伝統あるものは、その時代においてアバンギャルドな試みをしていたはず。同じことを繰り返していたら、次につながらない。今の感覚を注ぎ込むことが創造であり、伝統だと思うのです。
築城則子
めざすのは、現代の感性と伝統とのコラボレーションである、と言っています。
クラシックマジックを学ぶこと
時代を超えて残っているマジックほど、多くの人に演じられてきたのですから、レパートリーを増やすにはクラシックを学ぶことほど効率が良いことはないと思います。
また、クラシックを学んでいくと、新しいトリックに触れたときに「古典になりうるか」の選球眼が養われます。
これに関してはマジェイアさんが面白い話(「基準となるもの」)をしていますので、興味のある方はぜひ読んでみてください。
古くて新しいマジック
マジックが面白いのは、基本となる原理が50-100年前に考案されていても、見せ方を工夫すれば現代でも効果的に演じられることです。まさに温故知新ですね。
これはマジェイアさんがAnnemanのPractical mental effectsの項で触れているように、人間の基本的な心理は時代を超えて変わらないからなのでしょう。
カードマジックの原理にキーカードと言われるものがあります。初心者の頃に学ぶ原理ですが、これに至っては1584年出版の「妖術の開示」にすでに載っているらしく、400年以上の歴史があります。もはや考古学レベルのお話ですね。
セルフワーキング・マジック事典にキーカードをさらに発展させたものが載っています。大変巧妙で、特に「警察犬」は初見ではまず追えないと思います。これも1938年の原案が元になっていて、時代を超えて発展するトリックの力強さが感じられます。
最近見た中で面白かったのは、ライアン・シュルツの”Super Strong Super Simple”の中にある”Six Covers Six”という、選んだカードを観客がシャフルしたデックから裏向きで探し出すトリックで、とても不思議でした。
個人的おすすめの本・DVD
20-30年前に出版された本でも、いわゆる名著を読むと新たな発見があります。
私の知識の範囲で、いろんなバリエーションを目にするようなトリックが載っているものを挙げてみます。
あくまでも私見ですので、参考程度にお考えください。
奇術入門シリーズ カードマジック(高木重朗)
カードマジック (奇術入門シリーズ) 単行本 – 1987/6/1
高木 重朗 (著)
奇術入門シリーズ トランプマジック(氣賀康夫)
トランプマジック (奇術入門シリーズ) 単行本 – 1996/1/1
気賀 康夫 (著)
奇術入門シリーズ メンタルマジック(三田皓司)
メンタルマジック―奇術入門シリーズ 単行本 – 1995/2/28
三田 皓司 (著)
博覧強記の著者らによる入門シリーズです。初心者がカードマジックを本から学びたいならば、上記2冊は大変おすすめです。
このメンタルマジックもおすすめです。読むとそんな簡単なことで驚くの?と思うかもしれませんが、重要な原理が複数解説されていて、演出をしっかりすれば素晴らしいトリックが多く載っています。あのデビッド・ホイのブックテストも載っています。
20-30年ほど前の本になるので中古になりますが、2021年10月5日時点で、アマゾンではまだ取り扱っているようです。
その他、コインマジック、シルクマジック、ロープマジック、ステージマジック、テーブルマジックもありますが、あまり読み込めていないので割愛…^^;
セルフワーキング・マジック事典(松山光伸)
セルフワーキング・マジック事典 単行本 – 1999/7/1
松山 光伸 (著)
カードマジックを中心に、技法を使わないマジックを解説。前述した「警察犬」も収録されています。
セルフワーキング・マジックの古典的な原理が解説されており、中でも最初のトリック「悪魔との取引」は確実にクラシックです。
クラシックマジック事典(松田道弘)
クラシック・マジック事典 単行本 – 2002/9/1
松田 道弘 (著)
クラシックマジック事典Ⅱ(松田道弘、他)
クラシック・マジック事典〈2〉タネも仕掛もあるマジック 単行本 – 2003/4/1
松田 道弘 (編集)
題名からも分かる通り、クラシックマジックばかりを集めた本です。
クラシックマジック事典ではスライトを中心に、Ⅱではギミックを中心に解説されています。
Ⅱはかなり著名なマジシャン達が解説を書いており、読んでいてワクワクします。
ただし初心者向きではなく、ある程度マジックを演じなれた中級者以上の方向けです。
Johnny Thompson’s Commercial Classics of Magic 1 – 4
動画であれば、このジョニー・トンプソンのDVDがおすすめです。これも初心者向きではないのですが、解説されているトリックは本当にクラシックマジックばかりで、目指すべき目標がイメージできます。
Vanishing Inc.ではダウンロード版もあります。
後思いつくものとしては定番中の定番、ターベルコース、Stars of Magicもあります。
ターベルコースは全巻持っておらず、そもそも手に入れにくいですよね…PDFでも良いので復刊されないものでしょうか。
最後に
昨今情報が簡単に手に入ることもあり、新しい現象のマジックも目にするようになりましたが、将来残るものは限られると思います。
実際、数十年前のマジックがリバイバルされ、ショップでもすぐに売り切れる事例を時々目にしますが、それだけ古くて力強いトリックがまだまだあるということなのですね。
コメント
[…] もう一つは、いわゆるその分野における古典から入ることである。時間という試練をくぐり抜けている作品や本は、ハズレが少ない。cf. 古典についての考察 […]